2006年4月
スケッチという「勝負」
大きな水彩紙を持って、ある場所にやってきたものの、いざその風景と向き合うと、どう描いていいやら分からず途方にくれてしまうことがあります。 初めからモチーフに負けているのです。こんな時にムリをして描いてもダメ。必ず失敗作に終わるものです。 相手に気持で圧倒されたばかりか、「描かねば」という緊張で線も固くなるからでしょう。 WBCの準決勝ですでに2度負けた韓国チームと闘うことになった王ジャパンの選手たちの気持も同じようなものだったかと思われます。 一枚の絵を描くことは、ギリギリの場所に立った場合、勝つか負けるかの「勝負」という意味では、重いプレッシャーを背負った野球選手と何ら変わることはないのです。 この1月、アフリカのサバンナに滞在している時、私は一度ならずちっぽけな技術など通用しない、強烈な情景や人物を前にして途方にくれてしまいました。(→clik!)*クリックで以下別ページ表示 そんな時、私は武士道を説いた本「葉隠(はがくれ)」の一節を思い浮かべることにしたのです。 曰わく、「曲者(くせもの)というは、勝負を考えず無二無三に死に狂いするばかりなり。これにて夢覚むるなり」 これはつまり、うまく描こうなど考えずに、捨て身の裸になってただただ描け描きまくれということです。子どものような初心に帰って闘えということです。 ハッとして、腹をすえ開き直るとホントに描けそうもないと思ったものに向かってペンが自由に動き出すのです。 王ジャパンも、たぶんそんな気持になることが出来たため、韓国チームに勝ったのではないでしょうか。 野外スケッチや旅スケッチに最高の季節がやってきました。 おそれることなく「手に負えない」モチーフに立ち向かい、「勝負」をいどみましょう。 上手な絵よりも初心に帰り、捨て身の自由さをもった絵を描きましょう。 (「葉隠」は、三島由紀夫「葉隠入門」(新潮文庫)の他いろいろ出ています)