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2009年3月 

「モチーフ探しの人生」

 まだ冷たい木枯らしの吹く浅草の裏通りを、私は今日もひとりさまよい歩いています。
 何を隠そう「さて浅草の街のどこを描こうか?」という野外スケッチのモチーフ探しであります。
 仕事の注文でどこそこを描けと言われたのと違い、「どこでも好きなところを描けばいい」という場合は、ホントに悩ましいものですね。自由を与えられた「楽しさ」と、究極の選択をせまられた「胸苦しさ」とが同時にこの私を揺さぶるからです。
 何より欲しかった自由を手にしたとたんに「その上でお前はいったい何をやりたいのか?」の問いを突きつけられたというわけです。
 白い息を吐きながら、人混みの中を歩きつづける内に「このあたりを描くしかない(*「描くしかない」に傍点)かな」とか「今イチだけど描き出せば好きになるかも……」などの弱い?こころが胸をよぎりはじめます。おおっと危ない危ない。
 野外スケッチのモチーフ探しは、お見合いの相手探しと似ていると言われます。
 しかしよく考えると「お前はいったい何をやりたいのか?」という人生の根本的な問いを突きつけられるのですから、モチーフ探しとは、生きることそのものとこそよく似ているのかもしれません。
 私の今日の浅草でのモチーフ探しは、それでもけっこう楽しいのです。でも胸苦しくもあり又、えらく寒くもあります。

<今月の絵>
二月の浅草にて(760×560mmアルシュ)
1.これは浅草寺の西側、五重の塔通りにある木馬館という大衆劇場です(すぐ隣に木馬亭という劇場があります)。
2.最初の日は、私の新宿教室の生徒さん10数人と浅草スケッチにやってきました。皆バラバラになってあちこちで描きはじめたようです。私は歩き回った末、木馬館の前に座り込んで、F8紙に4時間かけてこれを描きました。 3.翌々日の朝、2.の絵と、アルシュの中全紙とを持って、ふたたび浅草の街を歩き回ったのですが、結局ここに戻り、2.をやめにして、アルシュの中全紙のまん中に、初めからこの剣劇スター?の看板から新しく描くことにしました。
4.その又翌々日出かけていって線描きを完成。この日は青空でいい日射しだったのですが、とにかく寒く、手がこごえて困りました。
5.これは只今公演中の劇団花車の若座頭、姫錦之助さんを描いた看板絵です。今回の私の浅草スケッチのモチーフ探しのキメ手になったのは、この妖艶なる流し目でありました。おしまい。