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2009年5月 

千年の線

 自然物の中で難しいものの一つに樹木があります。樹木の枝葉は前後左右に張り出しているため、かなり立体的だからです。左右に出た枝葉はなんとか描けても、手前と向こう側の枝葉をうまく描くことは至難のことといっていいでしょう。
 風景画の原点といえば、7〜8世紀中国唐時代の水墨による山水画ですが、その頃の絵描きたちも、筆の線によってどうしても木をうまく描けないと悩んでいたということです。
 その後北宋の時代になり、李成(りせい)という天才画家が現われ、線描によって樹木の立体感をあらわすことを、一枚の作品によってみごとに証明しました。
 その作品が「寒林平野図」です。
 李成はそれまでの画家のように影をつけたり色をつけたりすることによって木の立体感を出す方法をいっさいとらず、すべてを「線」に懸けました。
 彼は書の筆法の一つ「転折(てんせつ)」を絵に用いたのです。転折とは文字を書くとき曲がり角や跳ねるときに線に入れる力を転ずること、つまり強弱緩急のメリハリをつけるということです。
「なんだそんなことか」と思うかもしれませんが、これは当時としては「コロンブスの卵」のような、大胆で新鮮な方法だったのです。

<今月の絵>
「寒林平野図」李成(10世紀初)
A.  今から一千年前、中国北宋時代は、山水画(風景画)の黄金時代。500年後のイタリア・ルネッサンス期をしのぐほどの優れた画家が現われた。李成はその中でも指導的な画家であり又思想家でもあったという。
B. 「寒林平野図」の下の部分です。
筆の線で強弱をつけながら、木の重なりと、木の質の違いを描きあらわしている。「蟹の爪のよう」と言われた枝先へのすさまじい集中力が感じられます。
C.  三本の木の重なりと、前後左右に出た小枝と松の葉を、気迫ある線で描き出した部分。
D. これは私がリブとピグマの線で模写をしてみたものです。李成の描く細い枝の先端にまで血が通っているように感じました。マネするだけでヘトヘトです。
「線」を描くことの怖ろしさをあらためて味わいました。
「四季山水図巻」(部分) 雪舟(15世紀末)
E. これは500年後、中国の山水画を学んだ日本人雪舟の描いた木です。線描に転折の枝を用いていることがわかります。
「自分の線」について考えている方は、ぜひ山水画の特に北宋など古いものを見ることをおすすめします。
(参考資料:別冊太陽『水墨画発見』、『ジュディの中国絵画って面白い』(二玄社)など)