←目次へ

2009年6月 

日本的な線

 樹木の描き方などを通して、線による絵画表現は一千年前、中国宋の時代にほぼ完成されてしまったといっていいかと思われます。
 その五百年後の15世紀初め、日本に一人の絵描き天才が現れました。ごぞんじ禅宗のお坊さん雪舟です。
 雪舟は48歳のとき、当時絵の本場であった中国、明の国へ渡って3年近く学んだというほど中国画(漢画ともいわれる)の影響を受けました。
 雪舟のえらい所は、単純な中国かぶれの描き方に止まることをせず、それまで日本にあったあの平安絵巻物にあるような、柔らかく情緒的なやまと絵の線と、力強く精神性のある漢画の線とをミックスさせた、あたらしい「日本的な線」を生みだしたということです。
 樹木と草の葉を描いた「花鳥図屏風」にそのプロセスがよく示されています。

<今月の絵>
「花鳥図屏風」
A.  6曲1双の屏風の一部です。木と岩は漢画風のゴツゴツした線で描かれており、草の葉や鳥には全く異なった線を使っている。
B. 木の根には漢画のテクニック転折(てんせつ─筆をころがして描く)が用いられ、立体感を出すようにしています。笹の葉はシャープでむしろ平面的に描いており、さらに遠くの葉にはやわらかいやまと絵風の線で描いている。このすごいミックスぶりを見よ。
C. やがて雪舟は、和漢2つの線を踏まえた上でのオリジナルな線による、この「天橋立図」を描きました。漢画風でもなく、和漢チャンプルでもない、あたらしい「日本的な線」ではないでしょうか。雪舟のやった仕事は、漢字にひらがなを加えてあたらしい日本の言葉をつくったこととよく似ているように思われます。